井澤勇貴・矢田悠祐W主演!
上質な音楽にのせて名コンビが事件に挑む
本格ミステリー歌劇『46番目の密室』稽古場レポート
臨床犯罪学者の火村英生と推理作家の有栖川有栖の活躍を描く有栖川有栖の人気シリーズの1作目『46番目の密室』。密室トリックを得意とし、“日本のディクスン・カー”と呼ばれる推理作家の別荘で開かれたクリスマスパーティーに参加した火村と有栖川がある密室に挑む作品だ。シリーズ内でも高い人気を誇る本作が、井澤勇貴と矢田悠祐のW主演による本格ミステリー歌劇として新たに作り出される。事件関係者役には、数々のミュージカルで活躍する津田英佑、吉沢梨絵をはじめ、飛香まい、阿久津仁愛、岡村さやか、輝馬、チャンへ、岡本悠紀、咲花莉帆、本田礼生、髙木 俊といった実力派が集結。確かな演技力と歌唱力で上質なミステリー作品を作り上げる。10月15日からの開幕に向けて、公開稽古が行われた。
<STORY> “密室の巨匠”と呼ばれる推理作家の真壁聖一(津田英佑)が北軽井沢で行う集まりに参加した火村英生(井澤勇貴)と有栖川有栖(矢田悠祐)。45に及ぶ密室ミステリーを発表し“日本のディクスン・カー”と称されている真壁は、親族や作家・編集といった仕事関係者が顔を揃える夕食の席で「最後の密室ものを執筆中である」と密室トリックからの卒業を宣言する。 そしてその後、真壁は密室状態の部屋で無残な姿となって発見された。果たして真壁は自らの46番目のトリックで殺されたのか――。
この日行われていたのは物語の中盤、火村とアリスが捜査を開始し、各キャラクターにとって犯行の動機となりそうな事情、被害者を取り巻く人間関係が見えてくる流れの部分だ。事件の謎と様々なヒントが提示される、見逃せないシーンと言えるだろう。ミステリーということで、劇中には原作と同じく伏線やミスリードも散りばめられている。原作を読んだことがない方は火村・アリスの捜査で明らかになる情報を元に、2人と一緒に犯人を推理するのも楽しいのではないだろうか。 聖一の妹・佐智子(吉沢梨絵)とその娘・真帆(飛香まい)のすれ違いをアリスが知る場面では、母娘それぞれの思いが楽曲にのせて綴られる。飛香は自分の世界に浸っている母への憤りや愛憎をまっすぐにぶつけ、可憐な少女の苦しみを好演。対する吉沢は自分の世界に浸る夢見がちな母親を可愛らしくも残酷に見せ、2人のすれ違いを明確にしている。また、事情を知ったアリスが頭の中で様々な推理を繰り広げている様子を、矢田が丁寧に演じている。それぞれの気持ちの動きやキャラクターの核をはっきり見せるため、立ち位置や動きを細かく調整しながら作り上げているのが印象的だ。苦しい心情を吐露する場面ではあるが、楽曲と歌唱によって切なくも美しく、ドラマティックなシーンに仕上がっていた。
続いては、真壁聖一の担当編集である船沢(岡本悠紀)と杉井(チャンへ)のシーン。稽古の合間には津田と岡本、チャンへの3人でわちゃわちゃしている和やかな一場面もあったが、通しが始まると貫禄ある作家・担当編集2人による緊張感と疑惑に満ちたやりとりが繰り広げられた。ここでもそれぞれの立ち位置、どのセリフで視線を向けるかといった部分を確認し合いながら、キャラクター同士の複雑な関係性や秘密を匂わせるような空気感を作っていく。ディスカッションと微調整を重ねる様子に、この日は稽古が行われなかった他のキャラクターたちの見せ場や歌唱への期待値もグッと上がった。
また、「火村英生シリーズ」の魅力の一つが、火村とアリスのやりとりの面白さだ。推理小説作家という仕事柄か突拍子もないトリックや動機を推理するアリスと、それをあっさりと否定しながらも時にヒントを得て事件を解決に導く火村。親友らしい気の置けないやり取りや深い友情が、シリアスな物語の中にくすっと笑えるシーンやホッとする瞬間を生み出している。 井澤・矢田は軽妙な掛け合い、息のあった行動で名コンビをイキイキと魅力的に見せており、2人の歌唱やクライマックスで披露される推理が楽しみになった。この日の稽古では見られなかったが、作中で語られる犯罪に対する火村の考え方、2人の出会い、ミステリー談義といった2人の個性や関係性が強く出る部分を井澤と矢田がどう演じ、彼らなりの火村とアリスを作り上げるのか気になるところだ。
各キャラクターが滞在している部屋、事件に登場する暖炉や煙突といったセットも立体的で見ていて楽しい。別荘の広さが伝わり、火村とアリス、鵜飼警視(本田礼生)、大崎警部(髙木俊)が別荘内を歩き回って捜査する様子がリアルに見えてくる。重厚な印象を受けるが小回りのきく装置もあり、完成したセットに様々な小道具、衣装、照明が加わってどんな世界が生まれるのか非常にワクワクする。 1992年に書かれた作品ではあるが色褪せない王道ミステリーに舞台ならではの生の熱量や仕掛け、力のある音楽が加わり、初めて見る方から元々のファンまで幅広く楽しめる作品が生まれるだろうと感じた。 本作は10月15日(日)よりKAAT神奈川芸術劇場大ホールにて開幕。初日である15日(日)18:00公演、千秋楽となる10月22日(日)14:00公演はシアターコンプレックスTOWNでの配信も行われる。